日本ハイパーサーミア学会会員各位殿

日本ハイパーサーミア学会学術委員会では会員に最新のハイパーサーミア研究情報を提供するために「ハイパーサーミアに関する 最近の話題」と題して、メールでの配信を行います。その第1号として委員長の大塚健三会員より、情報提供をいただきました。今後、最近の研究情報をお持ちの会員におかれましては、情報提供をお願い申し上げます。様式は、以下に従い、概ねA4で1ページ程度の内容を事務局にお送り下さい。尚、掲載にあたっては、校正し、修正を求めることもありますので、よろしくご理解のほど、お願い申し上げます。

ハイパーサーミアに関する 最近の話題 1

HSF1とHSPsを標的としたがん治療の試み
(中部大学応用生物学部:大塚健三)

 がん細胞において、主要な熱ショックタンパク質であるHsp90やHsp70、またそれらの転写因子である熱ショック因子HSF1が高発現していることは以前から知られていたが、その生物学的意味については不明であった。しかし、2007年に衝撃的な論文が発表された(1)。それによると、HSF1ノックアウトマウスでは、化学発がん剤や変異型p53によるがんの発生が抑制されるという。つまりHSF1はがんの発生を促進しているというのである。その後、HSF1だけでなくHsp90やHsp70などもがんの発生や増殖、浸潤や転移に関わる転写因子やシグナル伝達分子の機能を制御することにより、がん細胞の生存に寄与していることがわかってきた。このようなことからがん細胞は、がん発生や進展の過程で、本来は正常な細胞の防御機構であるHSF1-HSPシステムをうまく利用することにより、宿主側の攻撃から自らを護り、がん細胞にとってはストレスの多い環境(低酸素、低栄養など)でも生き延びることができるように適応していると考えられるようになってきた。

 そこで、がん治療のためにHSF1や各HSPを標的とした阻害剤が盛んに探索されてきている。 Hsp90阻害剤については古くから研究されており、ゲルダナマイシンやその誘導体である17-AAG、最近では第三世代の阻害剤と称する薬剤などが基礎研究や臨床研究まで進んでいる。しかし、Hsp90阻害剤の欠点の一つはHSF1を活性化してHsp70などのHSPsを誘導し、がん細胞をストレス抵抗性にすることである。したがって残念ながら臨床応用されているHsp90阻害剤はまだない。

 Hsp70阻害剤についてもいくつかの薬剤が候補にあがっているが、まだ培養細胞やモデル動物を用いた基礎研究段階である。

 HSF1阻害剤については、最近興味ある化合物が報告されている。まず、トリアゾールヌクレオシド類似体のひとつがHSF1のmRNAとタンパク質の発現を低下させると同時に、いくつかのHSPs(Hsp90、Hsp70、Hsp27)の発現も抑制した。その結果、発がんに関連するシグナル伝達経路やアポトーシスを阻害することで抗腫瘍効果が見られた(2)。またNZ28という化合物は、ストレスによるHSPsの誘導を阻害し、がん細胞のHsp90阻害剤や放射線に対する感受性を増感するという(3)。最近報告されたRohinitib(RHT)という化合物は、リボソームにおけるタンパク質翻訳過程の阻害剤のひとつであるが、不思議なことに、ハウスキーピング遺伝子の発現には影響を与えないが、HSF1の制御下にある遺伝子(多くのHSPsやがん関連遺伝子)の転写活性を特異的に阻害するという。つまりRHTによってHSF1の活性が抑制されたのである。さらにRHTは正常細胞に比べてがん細胞に対してより強い殺細胞効果があり、またマウス移植腫瘍に対しても抗腫瘍効果がみられた(4)。しかしRHTが直接HSF1に結合するわけではないので、RHTによる翻訳阻害がなぜ特異的にHSF1の転写活性を阻害するのか不明である。近い将来、HSF1やHSPsの阻害剤が臨床の現場で応用されることを期待したい。

 

文献

(1) Dai C, Whitesell L, Rogers AB, et al. Heat shock factor 1 is a powerful multifaceted modifier of carcinogenesis. Cell 2007,130: 1005-18.

(2) Xia Y, Liu Y, Rocchi P, et al. Targeting heat shock factor 1 with a triazole nucleoside analog to elicit potent anticancer activity on drug-resistant pancreatic cancer. Cancer Lett. 2012,318: 145-53.

(3) Schilling D, Kuhnel A, Konrad S, et al. Sensitizing tumor cells to radiation by targeting the heat shock response. Cancer Lett. 2015,360: 294-301.

(4) Santagata S, Mendillo ML, Tang YC, et al. Tight coordination of protein translation and HSF1 activation supports the anabolic malignant state. Science 2013,341: 1238303.

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