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HSP90阻害剤17-AAGによる炎症性腸疾患治療の可能性
(富山県立大学・古澤 之裕)

 熱ショックタンパク質(HSP)をがん治療に利用する試みは、近年、がん免疫療法において、注目されている(1)。各HSPを標的にした治療では、がん細胞で高発現しているHSP90を標的とした阻害剤が抗がん剤として探索されてきた。本阻害剤はHSP90とHSF1の相互作用を抑制するものの、フリーになったHSF1を活性化してHSP70等の細胞保護に働くHSPsを誘導することから、臨床応用には至っていない。

 ここではHSP90阻害剤である17-AAGが、HSP90阻害とそれに続くHSF1活性化を介して、大腸の制御性T細胞を誘導し、炎症性腸疾患モデルマウスの発症を抑えた例について紹介する(2)。

 多くの末梢リンパ球が集積した腸管は生体内で最大の免疫系を形成している。腸管では、制御性T細胞と呼ばれるT細胞サブセットがヘルパーT細胞の中で最も大きな割合を占めており、腸内細菌に対する宿主の過剰応答を防ぎ、炎症性腸疾患の発症を抑えている(3)。近年、先進国で増加の一途を辿る炎症性腸疾患には、対症療法しかなく、根治に向けた新規治療法の開発が望まれている。炎症性腸疾患では、粘膜固有層の制御性T細胞の減少や機能の減弱が見られることから、制御性T細胞を誘導あるいは活性化する薬剤は、炎症性腸疾患治療のための新たな切り口となる。

 Collinsらは、デキストラン硫酸投与およびCD45RBhiナイーブT細胞移植により作成した大腸炎モデルマウスにおいて、17-AAG投与が炎症を軽減させることを見いだした。また17-AAG投与により、大腸粘膜固有層の制御性T細胞の割合と抑制性サイトカインであるIL-10の産生が上昇した。これまでHSP90が、制御性T細胞の抑制に関わる報告はあったが、HSP90の標的分子は多岐に渡るため、詳細なメカニズムは不明であった。本論文では、17-AAGによる制御性T細胞の抑制能の向上は、HSF1欠損マウス由来の制御性T細胞では認められなかったことから、HSP90が少なくともHSF1の機能を抑制する事で、制御性T細胞機能を抑えていると考えられる。また、その意義は不明であるものの、筆者はた原因と考えている。

 本知見は、HSP90阻害剤の炎症性疾患治療への新たな応用の可能性を示すものであるが、制御性T細胞におけるHSP90高発現の意義や、HSF1が如何にして制御性T細胞を調節するかは不明であり、更なる詳細な機構解明が待たれる。

参考文献

  1. Shevtsov M, Multhoff G. Heat shock protein-peptide and HSP-based immunotherapies for treatment of cancer. Front Immunol. 2016, 7:171.
  2. Collins CB, Aherne CM, Yeckses A, et al. Inhibition of N-terminal ATPase on HSP90 attenuates colitis through enhanced Treg function. Mucosal Immunol. 2013, 5:960-971.
  3. Furusawa Y, Obata Y, Hase K. Commensal microbiota regulates T cell fate decision in the gut. Semin Immunopathol. 2014, 37:17-25.

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