ハイパーサーミアに関する最近の話題9


温熱誘導アポトーシス抑制に関するマクロファージ遊走阻止因子(MIF)の役割
吉久陽子,清水忠道(富山大学大学院医学薬学研究部皮膚科学講座)

 

我々の皮膚は体の最外層にあるため,紫外線や温熱などの物理的あるいは化学的刺激に曝されて傷害を受ける.このような外界からの多様な刺激や炎症によって傷害を受けた表皮細胞は老化やがん化を引き起こすが,アポトーシスを誘導してがん化を抑制している.

マクロファージ遊走阻止因子(Macrophage migration inhibitory factor:MIF)は,アレルギー炎症や免疫応答,細胞の遊走,増殖と分化,メラニン生成経路において酵素的役割を担う多機能なサイトカインである.MIFはサイトカインカスケードの上位に位置し,TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインを誘導してアレルギーなどの炎症症状を悪化させる一方で,がん抑制遺伝子p53の発現誘導を制御するという他のサイトカインにはない特徴的な作用を有している[1].実際,これまでに紫外線照射により発現が亢進したMIFによりp53の発現が減弱し,p53により誘導されるアポトーシスが抑制されること[2],またMIFは細胞増殖因子・血管新生因子として作用し,光発がんにも関与していること[3]が報告されている.

最近,我々は温熱が誘導する表皮細胞のアポトーシスをMIFが抑制するメカニズムを新たに解明した[4].MIFを過剰発現したMIF Tgマウスの初代培養表皮細胞では,温熱によりMIFの発現と産生が温度依存的に増加してアポトーシスが抑制された.その過程として,MIFは温熱によるp53やp53-dependent signalであるBaxの産生量やJNK pathwayのJNKとBadのリン酸化を顕著に抑制し,さらにはアポトーシスの最終実行因子であるカスパーゼ3活性化も有意に抑制することが分かった.一方,MIFを欠損したMIF KOマウスおよびコントロールであるC57BL/6マウスの表皮細胞では,温熱によるアポトーシスが温度依存的に促進され,p53,Bax,リン酸化したJNKやBadのタンパク質産生量も温熱による増加を認めた.すなわち,MIFはp53とp53-dependent signalを抑制する系と,JNK pathwayを抑制する系を介して,カスパーゼ3の活性化を抑制することで温熱誘導アポトーシスを抑制することが明らかとなった.このことから,紫外線や温熱などの環境刺激によって生じるMIFの過剰発現を制御することは,皮膚がんの予防に繋がるものと考え,さらには将来的にMIFを標的とした皮膚がんに対する新規治療法開発に繋がることを期待する.

参考文献

  1. Hudson JD, et al. A proinflammatory cytokine inhibits p53 tumor suppressor activity. J Exp Med. 190: 1375-82, 1999.
  2. Honda A, et al. Deficient deletion of apoptotic cells by macrophage migration inhibitory factor (MIF) overexpression accelerates photocarcinogenesis. Carcinogenesis. 30: 1597-605, 2009.
  3. Shimizu T, et al. High expression of macrophage migration inhibitory factor in human melanoma cells and its role in tumor cell growth and angiogenesis. Biochem Biophys Res Commun. 264: 751-8, 1999.
  4. Yoshihisa Y, et al. Role of macrophage migration inhibitory factor in heat-induced apoptosis in keratinocytes. FASEB J. 2016 (in press).

ご注意

このWebでは一般社団法人日本ハイパーサーミア学会についての一般的な情報を提供しています。
症例や治療に関する個人的な電子メールならびに電話でのお問い合わせには、誠に恐縮ですが、一切お答えすることは出来ませんのであしからずご了承下さい。