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紫外線誘発皮膚がんはHsp90阻害剤17AAGで予防できる
大塚 健三(中部大学応用生物学部)

 がん細胞では,熱ショックタンパク質Hsp90やHsp70,また,これらの転写因子であるHSF1が高発現していることが知られており,がん細胞はこれらの細胞防御系をうまく利用して,ストレスの多い環境(低酸素,低栄養,免疫系による攻撃など)でも生存できるように適応していると考えられている.そこで,これらHSF1やHSPsを標的とした阻害剤の探索が進められており,また,有望な阻害剤については臨床的にも試験的ながん治療が試みられている.しかし,これらの研究は,あくまでもすでに発生したがんの治療をめざしたものである.

 ところが,最近発表されたSinghらの報告によると,モデルマウスの皮膚にあらかじめHsp90阻害剤である17AAGを塗っておくと,紫外線によって誘発される皮膚がん(squamous cell carcinoma, SCC)の発生が抑制されるという1).つまり,17AAGにはがん発生の予防効果があるということである.さらに,紫外線による皮膚の光老化(シワやたるみ)に対しても防護効果があるという.

太陽光に含まれる紫外線,特にUVA(315〜400 nm)とUVB(280〜315 nm),は皮膚がんの最大の発生要因であり,欧米人にとっては深刻な問題である.紫外線照射は皮膚に炎症性反応を誘導し,酸化ストレス,免疫抑制,DNA損傷,さらに,遺伝子変異を引き起こし,これらの現象が皮膚がんの発症リスクを高めていると考えられている.紫外線による皮膚がんの発生メカニズムとして注目されているのが,PKCε(Protein kinase Cイプシロン)-Stat3シグナル伝達経路である2).紫外線によってPKCεが活性化され(発現が増加するがその活性化のメカニズムは不明),下流の転写因子であるStat3をリン酸化して活性化し,さらに,Stat3の標的遺伝子であるc−myc, cyclinD1, cdc25A, COX-2などが転写されて,細胞の増殖が促進されることになる.ちなみに,PKCεは内因性の光感受性因子ともよばれている.

 Singhらが見出したのは,PKCεがHsp90のクライアントタンパク質であることである.つまり,マウス皮膚に紫外線を照射すると,表皮組織においてPKCεの発現が増加し,Hsp90との結合が促進される.このことは新規に合成されたPKCεが分子シャペロンであるHsp90と結合することによってタンパク質の構造が安定化し,活性化状態が維持されることを意味する.実際に紫外線照射によってその下流のStat3のリン酸化も増加する(Tyr705とSer727のリン酸化).そこで,Singh らは,紫外線照射の前後にマウスの皮膚に17AAGを塗布しておいたところ,PKCεとHsp90の結合が阻害され,Stat3のリン酸化も抑制されることを示した.そして,長期にわたって週に3回の紫外線照射を繰り返した実験では,しばらくするとSCCが発生してくるが,紫外線照射のたびにその前後で17AAGを塗布しておくことで,SCCの発生が抑制され、また,生存率も向上したという.なお,紫外線照射の前にも17AAGを塗布しているので,この予防効果が17AAGのサンスクリーン(sun screen)効果(つまり,紫外線が17AAGによって吸収されること)によるのではないか,という疑問に答えるために,著者らは紫外線照射後だけに17AAGを塗布した場合でも,SCCの発生が遅延するという結果を出している.さらに,彼らは,紫外線による皮膚のシワ形成のマーカーであるコラーゲンIVやMMP(matrix metalloproteinase)の発現も17AAGの塗布により低下することを示した.

 皮膚の表面に塗った化学物質が表皮や,まして,血液中に取り込まれることは考えにくいが,この著者らは,マウス皮膚に塗布した17AAGが確かに表皮組織や血清中に検出されることを確認している.

 今回の研究が確実であることがわかれば,将来的には,紫外線による光老化や皮膚がんの予防のために、日焼け止めクリームの中に17AAGなどのHsp90阻害剤や,またHsp70やHSF1の阻害剤などが,医薬品として処方されることになるかもしれない.なお,今回の学術報告はSingh らの論文の解説記事3)を参考にした.

 

参考文献

1) Singh A, et al. Topically applied Hsp90 inhibitor 17AAG inhibits UVR-induced cutaneous squamous cell carcinoma. J Invest Dermatol. 135: 1098-107, 2015.

2) Aziz, MH, et al. Protein kinase C epsilon, which sensitizes skin to sun's UV radiation-induced cutaneous damage and development of squamous cell carcinomas, associates with Stat3. Cancer Res. 67: 1385-94, 2007.

3) Katiyar SK. Hsp90 inhibitor can inhibit UV carcinogenesis. J Invest Dermatol. 135: 945-7, 2015.

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