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局所温熱刺激による新規骨形成法の開発 ―臨床応用に向けてー

生田国大,大田剛広,西田佳弘(名古屋大学整形外科)

 

 我々は,悪性腫瘍に対してマグネタイト(磁鉄鉱)を用いた局所温熱療法の第1相臨床試験を実施してきた.その基礎実験において,温熱刺激により抗腫瘍効果以外に旺盛な骨新生がみられることを発見した.本研究は,「温熱刺激により骨形成が促進される」という仮説に基づき計画された.

 過去のin vitro実験では,39~42oCの温熱刺激による骨芽細胞の活性亢進や骨前駆細胞分化の促進が報告されている1-5).Shuiらは39~41oC,1時間の温熱刺激により骨髄由来間質細胞および骨芽細胞の増殖が増強することを実証している1).同様に,42.5oC,1時間の温熱刺激がヒト間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化を促進することを示している報告もある2).しかし,温熱刺激により骨形成が促進されるメカニズムはまだ解明されていない.Chenらは,ヒト骨髄幹細胞を用いてHSP70と骨形成の関連について調査している.彼らは,HSP70がRunx2,オステリックスなどの骨関連遺伝子の発現を亢進させ,ALP活性の上昇や細胞の石灰化につながることを報告している4).最近では,HSP90の亢進によりマウス頭蓋冠骨芽細胞の石灰化が惹起されることも報告されている.また,Liらは,骨芽細胞と内皮細胞を共培養した条件下でmild heat stressが血管新生を促進することを示している5)

 一方,骨の致死的温度については細胞レベル及び動物モデルにおいて報告されている.ラット骨芽細胞株に48oC,10分間の温熱刺激を加えると,アポトーシスおよび壊死に至るとされ,ウサギを用いた動物モデルでは47oC,1分間の温熱刺激により骨吸収が生じ,骨組織再生が遅れることが示されている.詳細な加温条件はそれぞれで異なるが,これらの結果から骨組織の致死的温度は47~48oCと考えられている.しかし,今まで生体内において,実際に骨形成に有用な加温帯について調査した研究はほとんどなかった.これは,周囲組織を傷害せずに標的部位のみを加温できる低侵襲な技術がなかったことが一因である.我々は,ラット脛骨欠損部にマグネタイトを包埋したモデルにおいて骨内の標的部位のみを加温する技術を確立している6).それにより,交番磁場下で生じる43~46oCという亜致死的加温域の局所温熱刺激が生体内で骨形成を促進することを確認し,特許出願および国際特許(PCT)出願を果たしている.また,骨髄内を43~46oCに加温しても周囲組織に悪影響を与えないことも示している.本研究では,過去のin vitro実験で有用とされた42oC以下の温熱刺激による骨形成促進効果も調査されたが,骨形成は43~46oCの加温域においてより増強していた.

 偽関節や骨欠損を有する患者において,骨癒合期間の短縮は患者のADL改善や早期社会復帰につながるため,その社会的意義は大きいと考えられる.局所温熱刺激については我々の研究と類型の研究はなかったが,カーボンナノチューブを用いた輻射熱刺激法による局所加温技術が報告されている.今後の展望としては将来的な臨床応用を見据え,実臨床で使用可能な保険収載されている人工骨,マグネタイト(リゾビスト®),加温機器(RF8)を組み合わせた温熱刺激による新規骨形成促進法を確立することを目指している.今後の臨床応用に際しては,至適温度の設定,温熱刺激の頻度についてさらなる検討が必要であろう.体内で熱を発する基材,手技の臨床応用には骨セメント,ラジオ波焼却などがあり,すでにその安全性が確認されているため,熱自体の有害事象は使用時の注意事項を順守すれば問題はないと考えられる.本研究では人工骨が磁性体を保持するための担体として用いており,磁場発生装置との組み合わせにより人における骨形成促進効果が確認できれば,人工骨の新たな用途を提案できる可能性がある.

 

参考文献

  1. Shui C., et al. Mild heat shock induces proliferation, alkaline phosphatase activity, and mineralization in human bone marrow stromal cells and Mg-63 cells in vitro. J Bone Miner Res, 16: 731–741, 2001.
  2. Nørgaard R., et al. Heat shock-induced enhancement of osteoblastic differentiation of hTERT-immortalized mesenchymal stem cells. Ann N Y Acad Sci, 1067: 443–447, 2006.
  3. Ye C.P., et al. Culture media conditioned by heat-shocked osteoblasts enhances the osteogenesis of bone marrow-derived mesenchymal stromal cells. Cell Biochem Funct, 25: 267–276, 2007.
  4. Chen E., et al. Extracellular heat shock protein 70 promotes osteogenesis of human mesenchymal stem cells through activation of the ERK signaling pathway. FEBS Lett, 589: 4088–4096, 2015.
  5. Li M., et al. Mild heat stress enhances angiogenesis in a co-culture system consisting of primary human osteoblasts and outgrowth endothelial cells. Tissue Eng Part C Methods, 20: 328–339, 2014.
  6. Ikuta K., et al. In vivo heat-stimulus-triggered osteogenesis. Int J Hyperthermia, 31: 58–66, 2015.

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