ハイパーサーミアに関する最近の話題27

 

Modulated-electro hyperthermiaよるリポソーム性抗がん剤取り込みの増強

近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部)

 

 Modulated-electro hyperthermia (mEHTと略,通称”オンコサーミア”)は,フラクタル変調された13.56 MHzのRF波を利用する新規温熱療法である.この手法は,加温するという点では従来のハイパーサーミアと同じであるが,腫瘍への選択性の高い加温が特徴である.正常細胞と異なり,がん細胞が無秩序,独立の組織を形成するために起きる変調電波に対する吸収率の増加を利用している.また,mEHTにおいては温度上昇だけでは説明できない生物効果もあり,温度上昇以外の電磁波の非熱的作用も重要な因子となっている.

“Lipodox®”は,ドキソルビシン(Dox)を含有するジェネリックリポソーム抗がん剤である.本薬剤とmEHTあるいは対照となる温熱処理(HT)を併用して,培養細胞およびマウス移植腫瘍モデルでその効果の比較結果が報告された1).細胞として,ヒト肝がん由来HepG2, 同肺がん由来A549, 同グリオーマ由来U87MG, マウス結腸がん由来CT26を使用した.LipodoxをHTあるいはmEHTと併用し(両者とも温度条件は42oC, 30分),トリパン青染色でViabilityの低下を調べたところ,全細胞で単独のmEHTによる有意なViability低下を示すとともに,Lipodox併用でさらなる減少を引き起こした.mEHT 併用によるLipodoxの取り込みについてDox蛍光を指標に調べたところ,HepG2>A549>U87MG>CT26の細胞順であった.HepG2細胞におけるLipodoxの取り込みについて,NaN3 (ATPase阻害剤),Chlorpromazine (クラスリン介在エンドサイトーシス経路阻害剤),Wortmannin (マクロピノサイトーシス阻害剤),Filipin (カベオラ介在経路阻害剤)を用いたところ,Filipin以外で取り込み抑制が認められた.Wortmanninは,また,mEHT+LipodoxによるViability低下を顕著に抑制した.CT26を用いたマウス移植腫瘍系でも,mEHT+Lipodox群で明らかな腫瘍増殖抑制が認められるとともに,HT+Lipodox群に比べて腫瘍内取り込みも約2倍に増加した.以上の結果から,mEHTは,エネルギー依存性マクロピノサイトーシス*1を介してLipodoxの腫瘍内取り込みを増やし,治療効果に寄与すると,著者らは結論している.

mEHTは,通常のHTに比べると腫瘍細胞膜,特に脂質ラフトに熱損傷を集積しやすく,アポトーシスを誘導するとされている.卵巣がんや子宮頸がん細胞を用いた実験で,mEHTおよびオートファジー阻害剤である3-Methyladenineの併用によって,アポトーシスが増加するとの結果が報告されている2).mEHTについては臨床利用が先行し,その生物学的メカニズムについて不明な点もあったが,細胞膜輸送への影響も明らかとなり,今後のさらなる研究が望まれる.

 

参考文献:

  • Tsang YW, et al. Modulated electro-hyperthermia-enhanced liposomal drug uptake by cancer cells. Int J Nanomed.14: 1269-79, 2019.
  • Yang W, et al. Combined treatment with modulated electro-hyperthermia and an autophagy inhibitor effectively inhibit ovarian and cervical cancer growth. Int J Hyperthermia 36: 9-20, 2019.

*1マクロピノサイトーシス:エンドサイトーシスの一種.細胞外の液体とそこに含まれる物質を,マクロピノソームと呼ばれる大型で不均一な小胞によって細胞内に取り込む現象.特定のがん細胞において,細胞外の栄養分を効果的に細胞内に取り込むために,マクロピノサイトーシスが促進される場合がある.

 

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