ハイパーサーミアに関する最近の話題29

Hsp70を核に輸送するタンパク質Hikeshi (火消し)の役割について

柚木 達也,田渕 圭章 (富山大学)

ハイパーサーミア (HT)や熱の研究領域において,熱ショックタンパク質Hsp70は最も良く研究されているタンパク質の一つである.細胞が熱ストレス等のストレスに暴露された時,Hsp70は速やかに細胞質から核へ輸送される.2012年,この輸送に,Importin ファミ
リーに属さないタンパク質で機能が明らかにされていなかった C11orf73遺伝子産物が関与することが明らかとなり,Hikeshi (火消し)と命名された1).この発見以降,熱ストレスに関連する研
究を行っている筆者は,常にHikeshiの研究動向に注目してきた.最近のHikeshiに関連する成果について紹介する.
臨床胃がん検体において,Hikeshiはがん組織で発現レベルが高く,その発現はリンパ管侵襲と有意に相関した.二種類のヒト胃がん細胞株を用いた検討において,非ストレス負荷条件では,Hikeshiのノックダウン (KD)は細胞の生存率に
影響を与えなかった.一方,43 oC,3時間の温熱ストレス負荷の24時後では,HikeshiのKDは細胞生存率を有意に低下させ,この条件下では,Hsp70の核内移行が抑制されていた.以上より,HikeshiはHTの新規の標的遺伝子になる可能性がある2).
ゲノム編集を用いて,ヒト子宮頸がん細胞HeLaとテロメア逆転写酵素で不死化されたヒト網膜色素上皮細胞株hTERT-RPE1 (RPE)から各々のHikeshiノックアウト (KO)細胞が構築された.温熱ス
トレス (43 oC,1時間)やプロテアソーム阻害剤によるタンパク質毒性が負荷された条件では,HeLa Hikeshi KO細胞は親細胞に比べて有意に細胞増殖が低下し,これにはHsp70
の核移行抑制による核内におけるHSF1の機能障害が関連していると結論された.一方,RPE Hikeshi KO細胞は親細胞に比べて細胞保護的な作用を認め,ストレス抵抗性の性
質を示した.これには,p53とその下流にあるp21の発現レベルの上昇が関与すると結論された3).今後、Hikeshiとp53-p21との関係の詳細が解明されることを期待している.
ヒトのHikeshi遺伝子変異と疾患との関連性を示した興味深い報告がある.アシュケナージ系ユダヤ人患者において,HikeshiのVal54Leuのホモ接合型点変異は,白質脳症や早死を誘導した4).また,HikeshiのCys4Serのホモ接合型点変異は,フィンランド人小児のミエリン形成減少を伴う白質脳症に関連することが報告された5).Hikeshiの立体構造を基にして,前者の変異はHikeshiタンパク質の不安定化4),後者はHikeshiタンパク質のホモダイマー形成阻害5)が原因でHikeshiの機能障害に繋がったと考えられている.
HTにおけるHikeshiの研究を含め,今後の本タンパク質の研究の進展に期待したい.

参考文献
1) Kose S., et al. Hikeshi, a nuclear import carrier for Hsp70s, protects
cells from heat shock-induced nuclear damage. Cell, 149: 578-89, 2012.
2) Yanoma T., et al. Heat shock-induced HIKESHI protects cell viability via
nuclear translocation of heat shock protein 70. Oncol Rep, 38: 1500-6, 2017.
3) Rahman K.M.Z., et al. Hikeshi modulates the proteotoxic stress response
in human cells: Implication for the importance of the nuclear function of
HSP70s. Genes Cells, 22: 968-76, 2017.
4) Edvardson S., et al. Leukoencephalopathy and early death associated with
an Ashkenazi-Jewish founder mutation in the Hikeshi gene. J Med Genet, 53:
132-7, 2016.
5) Vasilescu C., et al. Absence of Hikeshi, a nuclear transporter for
heat-shock protein HSP70, causes infantile hypomyelinating
leukoencephalopathy. Eur J Hum Genet, 25: 366-70, 2017.

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