ハイパーサーミアに関する最近の話題35 

ハイパーサーミアを用いたBRCA発現腫瘍細胞におけるPARP阻害剤およびシスプラチンによる合成致死の増強および放射線増感作用について

近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部

 

最近,複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象である合成致死 (Synthetic lethality)が癌治療の標的として注目されている.今回紹介するオランダのAcademic Medical Centerを中心としたグループはPARP (Poly(ADP-ribose) polymerase)1阻害剤 (PARP1-i)を用い,合成致死を標的にした温熱療法について研究をしている.PARP1はDNA複製を司る重要な酵素である.そのためPARP1の阻害は複製フォーク形成を阻害し,遺伝的不安定性を招き,DNA二本鎖切断を誘発しやすくし,結果として細胞死を誘導する.PARP1阻害によるDNA損傷は,BRCA2 (breast cancer susceptibility gene II) タンパク質を必要とするHR (homologous recombination, 相同組換え)で修復される.彼らはまず41〜42.5℃のマイルドハイパーサーミア(HT)はBRCA2の分解を促進することで一時的にその発現を低下させるので,HRを数時間だけ阻害し,その結果治療対象の腫瘍に合成致死条件を誘導することができることを示した1).シスプラチンはHTとの併用でその効果を増強することは知られており,彼らはさらにPARP1-i (NU1025,Tocris Bioscience, Bristol, UK)を併用した場合の細胞致死および腫瘍増殖遅延効果について調べた.細胞としてHR機能を有するラット横紋筋肉腫R1, ヒト子宮頚がんSiHaおよび HeLa細胞の3種類を用いた.3種ともHT処理(42℃, 1時間)でBRCA2発現は低下した.細胞周期解析,γH2AXフォーカス,アポトーシスおよび生存率を調べたところ,PARP1-iとシスプラチンおよびHT (42℃,1時間)との併用では生存率は減少し,この機序はDNA損傷の増加とDNA修復の低下で説明できる.R1細胞を移植したラット腫瘍モデルでも同様に治療増強効果が得られた.HR機能を保持した細胞でも有意な増強効果が得られたことより,PARP1-iとシスプラチンを用いた温熱化学療法はHR機能の有無に係わらず,有効な癌治療となることが示唆された2)

次に彼らはBRCA2保有および欠損の各2種の細胞の温熱による放射線増感効果に加えてPARP1-i併用効果について調べた.BRCA2保有および欠損細胞のPARP1-i毒性を調べたところ,欠損細胞が高い感受性を示した.BRCA2状態によらずHT(42℃, 1時間)は放射線増感したが,PARP1-i併用増感効果はBRCA2保有細胞で高かった.また,全ての細胞群で,HTと放射線およびPARP1-iの3者併用は2者併用に比べて最低の生存率,最高のDNA損傷およびアポトーシス生成を示した.これらの結果よりHTはHRの阻害に加えて,BRCA2欠損細胞においても放射線増感に寄与すること,PARP1-iを用いた3者併用はBRCA2状態によらず,全ての患者に有効である可能性が示された3)

本年のNatureの総説にがんにおける薬剤抵抗性について対策が取り上げられている4).この解決策として①がん化阻止を可能にする早期の腫瘍発見,②治療中の適応的モニタリング,③より高い奏功をもたらす新規薬剤や改良薬理学的指針の追加,に続いて,④ハイスループットの合成致死スクリーニングや臨床ゲノムデータの統合,数理モデル化によるがん細胞依存性の特定が挙げられており,合成致死は薬剤抵抗性の克服においても重要である.今後とも,合成致死を標的としたより選択性の高い薬剤開発とともに温熱の寄与についても研究が進むことが期待される.

 

参考文献

1) Krawczyk PM, et al. Mild hyperthermia inhibits homologous recombination, induces BRCA2 degradation, and sensitizes cancer cells to poly (ADP-ribose) polymerase-1 inhibition.

  Proc Natl Acad Sci U S A, 108: 9851-6, 2011.

2) Oei AL, et al. Enhancing synthetic lethality of PARP-inhibitor and cisplatin in BRCA-proficient tumour cells with hyperthermia. Oncotarget, 8: 28116-24, 2017.

3) Oei AL, et al. Enhancing radiosensitisation of BRCA2-proficient and BRCA2-deficient cell lines with hyperthermia and PARP1-i. Int J Hyperthermia, 34: 39-48,2018.

4) Vasan N, et al. A view on drug resistance in cancer. Nature, 575: 299-309,2019.

 

用語解説

合成致死(性) (Synthetic lethality): 単独遺伝子欠損では細胞や個体に対する致死性を示さないのに,複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象.「合成致死」分野の好例であるPARP阻害薬は,一本鎖DNA損傷を修復する機能を持つPARPと二本鎖DNAの損傷を修復するBRCAを治療標的とした薬剤である.本邦ではBRCA遺伝子変異陽性の卵巣癌を対象にしたAstraZeneca社のLynparza (Olaparib)が2018年に認可された.DNA損傷が起きた際,何らかの原因でPARPが機能しない場合でもBRCAが機能すればDNA損傷は修復される.しかし,BRCAに変異がありBRCAが機能しない細胞でPARPを阻害すると細胞死が起きる.このように,作用機序が明確かつ効果が示されていることから,「合成致死」分野の医薬品の開発が盛んに行われている.

PARP (Poly(ADP-ribose) polymerase) 1: ポリADP-リボシル化反応を触媒する酵素.本反応は真核生物に特異的な可逆的翻訳後修飾であり,DNA修復,転写調節,細胞死,中心体の分裂制御など,核内における多くの機能に関与している.DNA修復に関してPARPは,核DNAに生じた一本鎖切断端を認識してDNAに結合する.核DNAに結合したPARPは活性化され,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD)を基質としてPARP自身やDNA修復関連タンパク質にADP-リボースを付加し,ポリ-ADP-リボシル化を引き起こす.これによりDNA修復反応を活性化する.

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