一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.117【学術報告51】

最近の話題51(2020/08/27配信)

 

温熱療法による免疫チェックポイント阻害剤の効果増強

森田 勝(国立病院機構九州がんセンター 消化管外科)

 

 悪性腫瘍の治療として手術,抗がん剤,放射線療法は飛躍的な進歩を遂げてきたが,第四の治療といわれてきた免疫療法はなかなか日の目を見なかった.しかし,近年,免疫チェックポイント阻害剤*(Immune checkpoint inhibitor, ICI)が開発され,様々ながん腫への臨床応用がなされ,脚光を浴びている.従来の免疫療法が免疫賦活型であったのに対し,本治療は免疫のブレーキを解除するという逆転の発想に基づいている.

 一方,温熱はがん細胞特異的に殺細胞効果を示すのみでなく,生体内では腫瘍免疫を活性化する.そのメカニズムとして,組織血流増加による免疫担当細胞の遊走,HSP,サイトカイン,活性酸素の放出,アポトーシスによる免疫系への刺激,がん特異抗原の提示など多くが挙げられる1)

 ICIは時に劇的な効果を示し,難治性のがんに対する治療として特に有望であるが,奏効率の関しては一般に20~30%程度である.温熱は放射線や抗がん剤の効果を増強するのみならず免疫を賦活するという観点から,ICI投与時にハイパーサーミアを併用することにより抗腫瘍効果が増強されることが期待されている2).本「最近の話題33」でも2019年11月に横堀らが「温熱治療は腫瘍をHot tumor化することで免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強する」のタイトルで温熱のICIに対する感受性増加を示す動物実験を紹介した.これはPD-L1などの免疫チェックポイントタンパク質の発現に乏しいためにICIに効きにくいCold tumorに温熱を加えることで,タンパク質発現を促すことによりHot tumorに転換させICIの効果増強を図るという理論に基づいている.今回,同様のメカニズムに基づいて,光温熱療法*(PTT: Photothermal therapy)の併用によりICI(抗PD-L1抗体)の効果増強を示した動物実験がNature Communications誌に掲載された3)ので紹介する.

 本実験では,光増感剤と抗PD-L1抗体を脂質に混合させゲル化した複合体を作製した.この複合体は特定の波長の光を照射すると熱を発することで,39.5℃になると溶解するように調整した.そこで,マウスの移植腫瘍内に複合体を注入し,光を照射することにより局所のマイルドハイパーサーミア(45℃以下)と薬剤の放出が同時に行われるという原理である.複合体局注+光照射群では各対照群(PBS,抗PD-L1抗体なし,光照射なし,脂質なし)を比較したところ,原発巣のみならず肺転移巣の増殖も抑制された.免疫パラメーターをみると本治療により,リンパ節での樹状細胞の成熟化とともに,細胞障害性T細胞 (CTL) の浸潤と制御性T細胞(Treg)の抑制が原発,転移巣ともに認められ,免疫系が賦活化していた.さらに,治療による転移抑制効果は長期間認められ,免疫が記憶されることが示された.

 本実験は,光温熱による局所マイルドハイパーサーミアにより免疫状態がCold tumorをHot tumorに変化させICIの効果を増強させることにより,加温した原発巣のみならず転移巣にも効果を示した点,さらには脂質を用いて作製した複合体に光を加えることにより加温と薬剤の放出が同時に可能となった点でも,極めて重要でエレガントな実験といえる. 

 今後, ICIと温熱の併用に関してさらなる様々な基礎実験を重ね,併用効果,作用機序あるいは毒性を検討したうえで,ICIの効果増強としてのハイパーサーミアの臨床応用が開始され,臨床試験を通して本併用療法が広く世の中に認められる日が来ることを願っている.

参考文献

1)Hurwitz MD. Hyperthermia and immunotherapy: Clinical opportunities. Int J Hyperthermia, 36(S1):4-9, 2019.

2)Bull JMC. A review of immune therapy in cancer and a question: Can thermal therapy increase tumor response? Int J Hyperthermia, 34(6):840-52, 2018.

3)Huang L, et al. Mild photothermal therapy potentiates anti-PD-L1 treatment for immunologically cold tumors via an all-in-one and all-in-control strategy. Nat Commun, 10:4871, 2019. doi:10.1038/s41467-019-12771-9.

 

用語解説:

*免疫チェックポイント阻害剤:免疫チェックポイント(Immune checkpoint)とは抗原に対し免疫系が不応答 (Anergy) となるようにする機序で,生体においては自己の組織が免疫系に攻撃されないようにするためのバランスをとっている.がん細胞はこの機序を逆に利用しながら(免疫にブレーキをかけ,攻撃されることを防ぎながら)増殖することがあると考えられている.この免疫チェックポイントを標的とし阻害することにより免疫の活性化を促進する薬剤が免疫チェックポイント阻害剤で,さまざまながん腫に効果が示され広く臨床応用されつつある.従来の殺細胞性の抗がん剤に比べ,副作用の頻度は低いものの,時に重篤な免疫関連副作用を示すことがあり使用の際には注意が必要である.現在,臨床の場で最もターゲットとされているのはPD-L1/PD-1,CTLA-4である.

*光温熱療法(PTT: photothermal therapy):光を用いた温熱治療の一つで,光発熱体(多くはナノ粒子,ナノロッド)を用いて,長波長の光を照射して温度上昇を誘発し,治療に利用する方法である.光を用いたがん治療としては,レーザー光を用いた温熱治療(レーザーサーミア)や,光増感剤を投与して腫瘍に集積させ,光を照射して光化学反応誘導し,一重項酸素や他の活性酸素によりがん細胞を死滅させる光線力学療法(PDT: Photodynamic therapy)がある.本治療は,光を制御することにより温度の制御が可能な,侵襲の少ない局所療法である.

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