一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.142【学術報告63】

最近の話題63

膀胱がんを対象とした膀胱内潅流システムによるHIVEC治療

河合憲康(名古屋市立大学),近藤 隆(富山大学)

 本邦では膀胱がん*に対する温熱治療は一般的ではないが,世界的には高温膀胱内化学療法,HIVEC(hyperthermic intravesical chemotherapy)に関する基礎・臨床研究が進んでいる.非筋層浸潤性膀胱がん(non-muscle invasive bladder cancer: NMIBC)に対しては異なる加温法を用いた膀胱がん温熱療法システムが開発されており,最近,温熱と化学療法併用による実験治療結果およびヒトの臨床成績が報告されたので紹介する1, 2). 膀胱がんHIVECとしては, MML-Medicalが開発した915 MHzの電磁波を使うアンテナを腔内に設置して温熱治療を行うSynergo*システムと,ACTA Medical corporationが開発した温水灌流型COMBAT BRS* V5システムがあり,ここで紹介する報告は後者を利用している.

 43℃のハイパーサーミアは自然免疫を活性化して,膀胱がんの化学療法の感受性を高めることが期待されている.本研究ではCOMBAT BRS V5システムを用いた際の膀胱内マイトマイシン(MMC)の薬物動態とハイパーサーミアの安全性および組織浸透性について,ブタの膀胱モデルを使用して評価した1). 雌ブタ(60 kg)40 匹を使用し, MMC 用量は 40,80,および 120 mgとして,COMBAT BRSを用いて温度43℃で灌流した.加温時間は30〜180 分間であった.組織,血液,尿の試料を採取し,急速凍結後,保存した.組織中のMMC濃度は液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置で測定された.COMBAT BRSシステムでは, 12分間で目的温度(42〜44℃)に達することが可能で,目的温度で必要時間の維持が可能であった.ハイパーサーミアとMMC 用量が膀胱組織への薬剤浸透性に影響したが,ハイパーサーミア併用群では80 mg使用時で膀胱組織へのMMC浸透性は最高となった.また,43℃,120 mg 使用時でも肝臓, 心臓, 腎臓, 脾臓,肺, リンパ節でのMMC濃度は正常体温時と比べて有意な上昇はなかった.本システムにより安全に膀胱がん温熱治療が施行でき,43℃加温が可能であった.また,MMCとの併用は膀胱組織への薬剤浸透性を上げるが,他臓器への影響はないと思われる.

 BCG*膀胱内注入療法はNMIBCの治療として世界的標準治療であるが,10年程前から供給業者が減少し, 世界的にもBCG不足になりつつある.このためBCG膀胱内注入療法に替わるNMIBC治療法の開発が全世界的に喫緊の課題であることを考慮して,COMBATシステムと高用量MMCを用いた臨床研究が行われた2).中リスク(4名)および高リスク(10名)の患者を対象に120 mg MMCを用いて,43℃ HIVECが施行された.短い観察期間であるが,1年間の観察期間で,筋層浸潤癌への進展は認めなかったが,2例にNMIMCの再発を認めた(15%).7例でグレード1および2の有害事象があり,MMCアレルギーと膀胱の痙攣であった.再発した2例は有害事象のためHIVECが2回しか施行できない症例であった.今後,症例数を増やした長期観察研究が必要であるが本治療は安全に施行できることが判明した.温度管理もしやすい膀胱は温熱療法の対象として適しており,本邦でもHIVEC療法が進むことが期待される.

参考文献

  1. Tan WP et al. Safety and efficacy of intravesical chemotherapy and hyperthermia in the bladder: results of a porcine study. Int J Hyperthermia 37: 854-60, 2020.
  2. Grimberg DC et al. Clinical trial of high dose hyperthermic intravesical mitomycin C for intermediate and high-risk non-muscle invasive bladdercancer during BCG shortage. Urol Oncol. S1078-1439(20)30654-2, 2021.

 

用語説明

*膀胱がん:筋層非浸潤性の膀胱がん(NMIBC)は,初発膀胱がん全体の70%から80%を占める.経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で切除しても再発を繰り返しやすく,筋層浸潤性がんへの移行可能性もあり,TURBTから判断されるリスク分類に従って治療方針が決定される.重要な目的は,切除後の抗がん剤や弱毒化ウシ結核菌(BCG)の導入・維持療法を駆使した再発予防である.

(1)低リスク群では,TURBT直後(24時間以内)の抗がん剤注入が推奨されている.

(2)中リスク群では,抗がん剤,またはBCGの導入療法が推奨されている. 経過観察で再発や進展が確認された場合は抗がん剤もしくはBCGの維持療法または膀胱全摘除術の選択が判断される.

(3)高リスク群では2回目のTURBTを実施し,BCG維持療法,または膀胱全摘除術が選択される.

 

*Synergo system: MML-Medicalが開発したHIVEC用温熱療法装置.915 MHz用電磁波発信装置,薬剤潅流ユニット,およびマイクロプロセッサーで構成される.

*COMBAT BRS V5: COMBined Antineoplastic Thermotherapy Bladder Recirculation Systemの略で,ACTA Medical corporationによるHIVEC用膀胱潅流温熱療法装置.NMIBCの治療システムで革新的な再循環システムを利用している.

*BCG :仏語の Bacille de Calmette et Guérin の略.カルメット・ゲラン 桿菌とは, ウシ型結核菌 ( 英語: Mycobacterium bovis )の実験室培養 を繰り返して作製された細菌, および, それを利用した 結核に対する 生ワクチン ( BCGワクチン )のこと. 本来は前者にあたる細菌そのものを指す語であったが,医学分野では後者を単に「BCG」と呼ぶ場合が多い.

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