一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.131【学術報告58】

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 近藤 隆(富山大学),服部裕一(北海道医療大学)

 パイロトーシス(pyroptosis)*は炎症に関連した遺伝子制御された細胞死(regulated cell death,RCD)の一種である.すでに,熱中症などが要因となる熱ストレスがパイロトーシスを誘発することはラットの肝細胞1)やヒト臍帯静脈内皮細胞2で報告されている.最近,HSP90阻害剤3および熱ショックタンパク質HSPA12A4*がパイロトーシスを抑制する知見が報告されたので紹介する.

Zhouら3)は,エンドトキシンである菌体構成成分リポポリサッカライド(LPS) *あるいはStreptomyces hygroscopicusに由来する抗生物質ニゲリシン*で誘発したヒト急性単球性白血病THP-1細胞のパイロトーシスに対して,155種類の化学物質を対象に抑制物質をスクリーニングした.その結果,HSP90阻害剤であるゲルダナマイシンはパイロトーシスを抑制した.他のHSP90阻害剤であるラディシコール*,17-DMAG*,および17-AAG*もパイロトーシスにおけるインフラマソーム*/カスパーゼ-1/GSDMD(ガスダーミンD)シグナル経路に対して阻害的に働くことにより,パイロトーシスを抑制した.HSP90阻害剤で処理するとインフラマソームの重要因子であるNLRP3タンパク質が不安定となり,プロテアソームによる分解が促進された.HSP90の阻害によってHSP70の発現が上昇するが,これもHSP90阻害剤によるパイロトーシス抑制に寄与しているかもしれない.これらの結果は,パイロトーシスが関係する炎症性疾患の治療におけるHSP90阻害の有用性を示唆している.

敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで肝,腎,肺など主要な臓器に障害を引き起こす生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である.パイロトーシス活性化に対するカスパーゼ-4/5/11*による細胞質LPSセンシングが敗血症進行の主要因子であることが想定され,マクロファージと内皮細胞における研究からはLPSがアシロキシアシルヒドロラーゼ(AOAH) *で不活化され、そのことがLPSに対するカスパーゼ-4/5/11の脱感作を引き起こすことが報告されている.Liuら4)は,肝細胞においてLPSがHSP70ファミリー熱ショックタンパク質12A(HSPA12A)の核移行を増強することと,HSPA12Aをノックアウト(KO)したマウスではLPS誘発急性肝障害が増悪することを見出した.また,LPSが誘導するカスパーゼ-11*の活性化と、ガスダーミンDの切断による膜孔を形成するGSDMDNterm(パイロトーシスの指標)の生成が、野生マウスよりもHSPA12A-KOマウスで顕著であった.初代肝細胞を用いて機能の喪失・獲得実験をしたところ,HSPA12Aを欠損させると,細胞質LPSの蓄積や,カスパーゼ-11活性化,GSDMDNterm生成が促進され,HSPA12Aを過剰発現させるとそれらは阻害された.また,LPS誘発AOAH発現はHSPA12A欠損で抑制された.一方,AOAH過剰発現はHSPA12A欠損による肝細胞のカスパーゼ-11が介在するパイロトーシス促進を逆転させた.さらに分子機構を解析したところ,HSPA12AはPGC-1α (peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α) *と直接相互作用して,その核移行を促進し,それによって細胞質LPSを不活性化するAOAH発現を増やし,最終的に肝細胞のカスパーゼ-11介在性パイロトーシスを阻害した.すなわちこれらの知見は,HSPA12AがLPS誘発肝障害に対する重要因子であり,HSPA12Aを標的として敗血症患者の肝臓の管理することは可能な戦略になることを示している.

生物が細菌感染や損傷で組織傷害を受けると炎症が起こる.この時,感染や傷害を受けた免疫担当細胞では,インフラマソームによってカスパーゼ1が活性化され,炎症性サイトカイン分泌や細胞死が誘発される.関係する細胞死として,アポトーシスばかりでなく,パイロトーシスも役割を果たすと考えられ,今後さらなる細胞死の詳細な機構解明が進むことが期待される.尚,パイロトーシスおよび炎症に係るプログラム細胞死に関してはJorgensen らの総説5, 6)があり,参考にされたい.

 

参考文献

 

1. Geng Y et al. Heatstroke induces liver injury via IL-1β and HMGB1-induced pyroptosis. J Hepatol 63: 622-33, 2015.

2. Pei Y et al. Pyroptosis of HUVECs can be induced by heat stroke. Biochem Biophys Res Commun 506: 626-31, 2018.

3. Zhou Z et al. Heat shock protein 90 inhibitors suppress pyroptosis in THP-1 cells. Biochem J 477: 3923-34, 2020.

4. Liu J et al. HSPA12A attenuates lipopolysaccharide-induced liver injury through inhibiting caspase-11-mediated hepatocyte pyroptosis via PGC-1α-dependent acyloxyacyl hydrolase expression. Cell Death Differ 27: 2651-67, 2020.

5. Jorgensen et al. Pyroptotic cell death defends against intracellular pathogens. Immunol Rev 265: 130-42, 2015.

6. Jorgensen et al. Programmed cell death as a defence against infection. Nat Rev Immunol 17:151-64, 2017.

 

用語解説

パイロトーシス(pyroptosis):ピロトーシスとも称する.遺伝子制御される細胞死(regulated cell death, RCD)は現在,12種類に分類されており,その一様式である.パイロトーシスは,赤痢菌感染マクロファージで認められる“アポトーシス”として報告された.但し,細胞膜の破壊を伴う細胞死であった.その後,サルモネラ菌によるマクロファージの細胞死でカスパーゼ-1の関与が報告され,Cookson BTとBrennan MAにより,2001 年にpyroptosisと命名された.これは炎症誘導性細胞死として知られ,免疫担当細胞(マクロファージ,樹状細胞,T細胞など)が病原微生物などに感染すると,カスパーゼ-1が活性化し,細胞質の変性を伴い,ネクローシスに類似した形態学的特徴(細胞膜の孔形成,細胞の膨潤と破裂)を示す.この過程では,カスパーゼ-1の基質として作用するガスダーミンD(GDDMD)が知られ,これは非刺激時には,細胞質内で不活性型前駆体として存在するが,感染後,カスパーゼで切断されると,活性型のN末端断片(GSDMDNterm)が多量体化し,細胞膜に挿入,“孔”を形成し,細胞膜を破壊する.

HSPA12A:ヒートショックタンパク質A (HSPA) ファミリーを構成する遺伝子の一つ.染色体10q.26.12に位置する.

リポポリサッカライド (LPS):グラム陰性菌の細胞壁外膜の構成成分であり,脂質及び多糖から構成される糖脂質である.LPSは内毒素(エンドトキシン)であり,多彩な生物活性を発現する.LPSの生

ニゲリシン (nigericin):Streptomyces hygroscopicus に由来する 抗生物質.H+,K+ のアンチポーターとして作用する.グラム陽性菌に対する抗生物質として用いられていた.また,真核生物の細胞でゴルジ体の機能を阻害する.抗HIV活性も示す.理作用発現は,宿主細胞の細胞膜表面に存在するToll様受容体4 (TLR4) を介して行われる.

ラディシコール (radicicol): 別名モノルデン(monorden),HSP90阻害剤.

17-DMAG: 17-[2-(dimethylamino)ethyl]amino-17-desmethoxygeldanamycinの略でHSP90阻害剤の一つ.

17-AAG:別名はtanepcimycin,HSP90阻害剤.

インフラマソーム(inflammasome):病原体成分や内因性の成分により活性化される,NLR(Nod-like receptor),ASC(Apoptosis-associated speck-like protein containing caspase recruitment domain),およびカスパーゼ-1より構成される細胞内蛋白質複合体.

アシロキアシルヒドロラーゼ(acyloxyacyl hydrolase, AOAH):顆粒球内に存在するリピドAの枝別れ脂肪酸側鎖(アシロキシアシル脂肪酸)を分断する酵素.

カスパーゼ-11 (caspase-11): カスパーゼ-1の活性化を介してIL-1βやIL-18の活性化に関与するカスパーゼ.カスパーゼ-11はカスパーゼ-1と相同性があることから,炎症誘導性であると考えられてきたが,様々な病原性グラム陰性細菌によるインフラマソーム活性化にカスパーゼ-11が重要な役割を持つことが報告され,リポ多糖の毒性が,以前に考えられていたカスパーゼ-1ではなく,カスパーゼ-11に依存することが明らかになった.これにより,細菌感染に対する自然免疫応答でのカスパーゼ-11の炎症誘導性の役割が明確になった.

PGC-1α (peroxisome proliferator-activated receptor coactivator-1α):栄養状態に応答した代謝調節に関わる転写制御因子で,おもにミトコンドリアやパーオキシソームの生成に関わる.

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