ハイパーサーミアに関する最近の話題36

前立腺がんを対象にした金ナノシェルを用いた光温熱アブレーレーション治療

―臨床先行研究―

河合 憲康(名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野

世界的に光温熱がん治療(Photothermal cancer therapy, PTT)が注目を集め,多くの研究報告がされている.本手法は周囲組織には影響のない深達性の高い近赤外線(NIR)を照射すると熱を発生する金属ナノシェルを用いて,腫瘍をより選択的に,かつ効果的に光熱変換で腫瘍組織のみをアブレーションできる方法である.ナノシェルは球形の絶縁体の芯を薄い金属シェル(殻)で覆った~150 nm径の粒子である.NIR光(820 nm)照射によってナノシェル表面の伝導性金属電子が振動し,熱を発生する.いわゆる“ナノヒーティング”治療である.これらの原理は16年前に報告されており1),その後も基礎及び前臨床研究については多くの報告があるが,ヒトでの臨床報告例は少ない.ここで紹介する内容は低および中リスクと診断された16例のヒト前立腺がんを対象に有効性と安全性を検討した金―シリカナノシェル(AuroShells)を用いた光温熱療法に関する臨床研究の報告である2)

本研究では58-79歳までの前立腺癌患者で臨床病期T2a以下(転移がなく前立腺の左右どちらか片方みの限局性),Gleason score (グリソンスコア)4+3=7以下(いわゆる悪性度が低〜中)の16例を対象にPTTを実施した.16名はmultiparametric MRI (mpMRI)とエコーを融合させた生検(mpMRI-US融合生検)に,12カ所系統的生検を組み合わせた上で,前立腺癌は1カ所のみであると診断した患者である.治療プロトコールはAuroShells (7.5 mg/kg)を注射後,翌日に全身麻酔下,砕石位で会陰部からmpMRI-USのシステムで,NIR照射用のプローブを癌部位に刺入し3分間NIRを照射する.1,3,6,12ヶ月後に前立腺癌腫瘍マーカーPSA,および排尿症状,QOL意識,性生活の活動性を数値化するアンケート(それぞれIPSS, QOL Index, SHIM)を評価した.さらに3および12ヶ月ではmpMRIとmpMRI-US生検+12カ所系統生検を実施した. PSAは治療前6.7ng/mlであったが治療3ヶ月後は3.9ng/mlに低下した.CTCAE グレード3以上の有害事象も認めなかった.IPSS, QOL Index, SHIMも治療前後に有意な差は認めなかった.16例中NIR照射ができたのは15例,生検による治療部位の組織評価では3ヶ月後に9例(9/15:60.0%)は壊死組織となり前立腺癌は認めなかったが,12ヶ月後では13例(13/15:86.6%)が壊死組織で前立腺癌は認めなかった.結果は本法の低および中リスク群において有効性と安全性を示したものと言える.

前立腺癌治療もQOLの向上をめざし,癌部分のみを治療するFocal therapyが臨床でも注目されている.ここで用いたナノ粒子は比較的選択的に腫瘍部に取り込まれ,NIR光照射部のみでの発熱を利用する選択性の高い治療法である.今後も治療用ナノ粒子開発も発展すると思われ,癌のナノ治療研究がさらに進むことが期待される.

参考文献

1)  Hirsch LR, et al. Nanoshell-mediated near-infrared thermal therapy of tumors under magnetic resonance guidance. Proc Natl Acad Sci USA, 100: 13549–54, 2003.

2)  Rastinehad AR, et al. Gold nanoshell-localized photothermal ablation of prostate tumors in a clinical pilot device study. Proc Natl Acad Sci USA, 116: 18590-6, 2019.

 

用語解説

光温熱治療:Photothermal therapy (PTT)と称する.光増感剤を用い特定の吸収波長のレーザ光を照射する癌治療はPhotodynamic therapy (PDT,光線力学的治療)と称され臨床応用されているが光化学反応を利用する際に酸素が必要である.即ち癌の低酸素領域に対して効果は低くなる.また,光増感剤の光毒性による副作用も課題である.一方,PTTでは増感剤の金属コートしたナノ粒子に近赤外線を照射しその発熱を利用するため,低酸素性腫瘍も治療可能である.

mpMRI:multiparametric MRI.マルチパラメトリックMRIとは,従来から用いられてきた形態画像としてのT2強調像に,2種類以上の機能画像を組み合わせた診断法である.代表的な機能画像には,造影剤を用いて病巣の灌流を評価する造影ダイナミックと,水の拡散現象を画像化する拡散強調像がある.本法の有用性は,腫瘍検出・局在診断,悪性度の評価に加え,病期診断,治療効果判定,再発診断や予後予測と多岐にわたり,得られる診断情報は前立腺癌の適切な治療法の決定においてきわめて重要となっている.

 

グリソンスコア:前立腺針生検で採取した組織を顕微鏡で検査し,癌の悪性度を判断する評価指標.優勢病変(もっとも多い病変)と随伴病変(2番目に多い病変)を判定し,その数値の合計で2~10の9段階に分類する.グリソンスコアが高いほど,癌の悪性度は高い.

グリソンスコア 8以上:悪性度の高い低分化型前立腺がん

グリソンスコア 7:中等度の悪性度の前立腺がん

グリソンスコア 6以下:比較的進行の遅い高分化型前立腺がん

IPSS: International Prostate Symptom Score

SHIM score: Sexual Health Inventory for Men score

CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events

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