ハイパーサーミアに関する最近の話題20

 

ナノロッドを用いた癌治療のための光温熱治療(Photothermal therapy)について

 

近藤 隆(富山大学 大学院医学薬学研究部)

 

光を用いた癌治療にはレーザ光照射による温熱治療(レーザサーミア)や光増感剤を投与し,標的となる生体組織にレーザ光を照射して光増感剤から一重項酸素などの活性酸素を生じさせ,これによって癌を治療する光線力学治療(PDT;Photodynamic therapy)があるが,前者では腫瘍選択性,後者では光化学反応に酸素を必要とする点,等の課題もある.

現在,この光医学とナノサイエンスを融合する流れが加速している.PubMed検索で,ナノ粒子を検索すると17万件,ナノメディシンを検索すると2万件以上がヒットする.ナノサイズ粒子には①比表面積が大きく,生体分子の多量結合が可能,②適切な表面加工で,生体内循環性が向上,③EPR(Enhanced permeation and retention)効果による腫瘍集積性の向上,等の特徴がある1).ナノメディシンの一角をなす光温熱治療(PTT;Photothermal therapy)はナノ粒子利用で開始されたが,最近は近赤外線領域の吸収に優れることから,長波長レーザを用いた PTTとして球状ナノ粒子よりもナノロッドの利用が注目を浴びている.ナノロッドではアスペクト比(縦横比)を上げると吸収波長がさらに長波長側にシフトして光の深達性が向上し,また,表面を癌に特異的な抗体で加工することにより,癌組織への選択性をより高めることが可能で,ナノロッドの光発熱効果を利用したがん治療の利点は多い.

以下に,最近の研究例を示す.メラノーマ細胞に対する親和性を増すために葉酸修飾した金ナノロッド(GNRs-FA)を合成し,細胞水準でPTTを実施した.マウスメラノーマB16-BL6細胞をGNRs-FAで24時間処理した後,808 nmの近赤外レーザを異なる強度(0.96 W, 1.28 W, 1.59 W)で,15分間照射した.近赤外放射温度計の測定では,到達温度の最高値は,それぞれ43 oC, 46 oC,および49 oCであった.一方,GNRs-FAを含まない対照のPBS溶液では温度上昇はなかった.細胞死を検討しところ,43 oCでは生存細胞が50%以上で,細胞死であるアポトーシス,ネクロプトーシス,およびネクローシスの割合が10%,18%および18%であった.49 oCではネクローシスの割合が50%以上となるが,中等度の46 oCではアポトーシス,ネクロプトーシスの割合が高くなり後者で,最大の35%を示した.これらの結果は温度依存性に細胞死の様式が変わり,PTTではネクロプトーシスがその中で重要な役割を果たしていることが示された2).さらに,最近,放射線およびMRI診断に利用でき,また,治療にも利用できるGdシェルで加工された金ナノロッドが開発された.ラット結腸癌の肝転移モデルで,これを用いた診断と体外からカテーテルを用いたインターベンショナルPTT 治療実験の結果が報告された3).ナノロッドは形状や表面加工の工夫により,多くの応用が可能で,これに近赤外レーザを組み合わせた癌治療のための光温熱治療はさらなる発展が期待できる.

 

補足説明

ナノロッド:ナノパーティクル(ナノ粒子)には球状とロッド(棒)状の微粒子があり,ロッド(棒)状のナノ粒子のことを「ナノロッド(Nanorod)」という.中でも金ナノロッドは可視~近赤外領域に短軸方向および長軸方向の表面プラズモン共鳴 (Surface Plasmon Resonance)に由来する二本の吸収帯を示し,ロッドの形状によって二つの吸収ピークを制御できる.

 

参考文献:

  1. Elahi N., et al. Recent biomedical applications of gold nanoparticles: A review. Talanta, 184: 537-556, 2018.
  2. Zhang Y., et al. Temperature-dependent cell death patterns induced by functionalized gold nanoparticle photothermal therapy in melanoma cells. Sci Rep, 8: 8720, 2018.
  3. Parchur A.K., et al. Vasculature interventional radiology-guided photothermal therapy of colorectal cancer liver metastasis with theranostic gold nanorods. ACS Nano, 2018. DOI:10.1021/acsnano.8b01424.

 

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